石神井公園の茶室
2024
所在地 : 東京都練馬区
用途 : 茶室、住宅(リノベーション)
竣工 : 2024年4月
規模 : 87.55㎡
構造 : RC造
施工 : (株)RINZ
撮影 : 松井進
掲載 :建築ジャーナル24年10月号
改修前
改修前
改修前
『 リノベーション と オーセンティシティ 』
マンションの住戸の中に四畳半の茶室を設計した。施主は表千家で茶道に親しみ、自宅住み替えのタイミングで新たに取得した住戸を改修し、茶室を設えることにした。求められたのは、お茶会の開ける茶室で、「真・行・草」の設えで言うところの、「行」の設えでありつつ、比較的新しいマンションのインテリアとの調和である。
そこで、元々リビングに面した寝室だった部屋の壁と引戸を解体し、サッシやエアコンは活かしつつ、リビングに対して障子で開いたり閉じたりできる構成の茶室とした。
既存の窓を活かすため、部屋の中にまた部屋がある入れ子の構成とした。障子を閉めれば客室としても使える茶室であり、障子を取り外せばリビングと連続する小上がりの和室でもある。また、取り外した障子は行燈照明側の敷居と鴨居に収納しておく事もできる。
江戸間で四畳半の茶室には床の間を設え、墨蹟窓を設けた。墨蹟窓は納戸との間に開けられ、墨蹟窓の障子部分の意匠は施主夫婦の家紋をモチーフにデザインされた、施主友人からのプレゼントである。窓枠は竹材の曲げ加工とした。
床の間に床脇は設けず、建具受けを兼ねる床柱は杉の面皮柱とした。リビングとの意匠のバランスも考慮し、シンプルで線の少ないデザインを心掛け、落とし掛けは省略し、床框のない踏込み床とした。
茶室は床を上げ、納戸から使える床下収納として、茶器類を収納することができる。納戸側の壁には着物を掛けられるように長押を設えた。茶室の畳は熊本県産藁床の本畳とし、炉畳には電熱炉を設えた。炉の真上には天井下地を補強した上で釜蛭釘を差し込んだ。
お茶会の際、客はリビングから茶室に入り、床飾りや茶道具を拝見した上で着席する。主人は茶道口から入り、点前畳でお点前を披露する。茶道口の外側には元々収納であった場所を活用して置き水屋が設置される。置き水屋とは給排水設備のない簡易的な水屋である。
置き水屋の前には主人が作業する際、床レベルを合わせるために折り畳み式の畳ユニットがセッティングされる。畳ユニットは四本脚を折り曲げ、床下に収納できる家具となっている。畳ユニット置場の上部の天井には暖簾を掛けるフックを設置した。暖簾はお茶会の最中の目隠しとして使われる。
茶室の天井に照明は設けず、床の間の間接照明と、造作の行燈照明の二灯のみとした。どちらも調光調色可能とし、様々な使い方が想定される。夜間は茶室の照明を点けて障子を閉めると、内部でありながら外部から日本家屋を見ているようであり、茶室全体が大きな行燈のようにも見える効果がある。
これまでリノベーションというと古い間取りの和室を解体して広いリビングにするケースが多かったが、今回は洋室から和室、しかも表千家式の茶室をつくるという、逆のパターンの改修であった。
オーセンティックな茶室を目指しつつ、あまり和風に寄せ過ぎるとリビングとのバランスが悪くなるため、一つ一つの要素、素材や色やディテールの選択には細心の注意を払いながら進めていった。
最初に一つの強い方針をつくるのではなく、ふわふわして形のないものを試行錯誤しながら少しずつ形にしていった。それは、増築しながら少しずつ意匠を更新していく数寄屋建築のように、部分と全体のバランスを天秤にかけながら丁寧にデザインを決めていった。
シンメトリーや強い形式性を持つ西洋の伝統的な考え方とは対照的に、日本の数寄屋建築とは本来そのようにやわらかく意匠を決められていたのだろうと思い、そのプロセスを実践できたのではないかと思う。
BEFORE
AFTER
BEFORE
AFTER
1. 置き水屋
2. 畳ユニット
3. 茶道口
4. 踏込畳
(下部畳ユニット収納)
5. 点前畳
6. 炉
7. 炉畳
8. 客畳
9. 貴人畳
10. 床の間
11. 墨蹟窓
12. リビング
13. 納戸
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